模型のメディア論  松井広志


この本は「模型メディアの論」ではなく「模型のメディア論」です。所謂模型メディアという雑誌、SNSの論評ではなく「モノがメディアになる」という本です。
模型は「モノ」である模型と人との関係と、模型を通して何か別の存在にも思いを馳せるという事から、「モノ」と「メディア」論を展開しています。第一部は模型のメディアとしての分析を歴史に沿って行い、第二部では現在の模型の分析で、第二部に繋がる理論も少し展開されています。第三部では理論が展開され、記号論や社会学やメディア論をいくつか紹介しながら分析を加えています。
模型ファンが読む場合、人を選びますが最初の5ページ位で、「この本があなたを呼んでいる」かどうかは分かると思います。書店で見かけられたら是非冒頭を読んでみて下さい。
メディア論として模型を取り上げるという手法を私は少なくとも聞いた事が無いので非常に野心的な試みだと思いました。また中盤から「集合的記憶」というキーワードをメインに説が展開されます。これは非常に説得力のある説で、メディアの定義としても非常に面白かったです。
私の社会学の知識は大学一般教養レベルなので、突っ込んだところは理解できない部分もあったのですが、まずまず理解できました。なお第三部の理論の冒頭は社会学や記号論の入門知識が無いとちょっと厳しい箇所かもしれません。一つ試しに・・・「文化は記号である」(記号は文化であるではなく)という命題を聞いた事があるなら、概ね大丈夫だと思います。
この模型のメディア論から展開できそうな話として、押井守的な意味合いでの「虚構と現実」への展開がありそうです。虚構である「ガンダム」と実物がある「カウンタック」や「タイガー戦車」は果たして違うのか、特に模型として成立させたときにどう違うのか?というものがあります。これは実は前述の「集合的記憶」の説からは読み解けそうな話でもあります。

投稿者プロフィール

maido
maido
模型工房M代表。
模型好き。カメラ好き。宝塚歌劇好き。
各模型雑誌で掲載多数。
艦船模型、飛行機模型、AFV模型などプラモデル全般の制作代行も承っております。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA